「母平均の差」の「区間推定」や「検定」は統計検定$2$級などでよく出題される基本的な問題です。一方で、「標本平均の差」が従う確率分布に関する導出に関する解説がなされない場合が多いです。そこで当記事では正規分布のモーメント母関数を元に詳しい導出を取りまとめました。
Contents
正規分布のモーメント母関数
正規分布のモーメント母関数の式
正規分布のモーメント母関数を$m_{X}(t)$とおくと、$m_{X}(t)$は下記のように表せる。
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\begin{align}
m_{X}(t) = \exp \left( \mu t + \frac{\sigma^2 t^2}{2} \right) \quad (1)
\end{align}
$$
正規分布のモーメント母関数の導出
モーメント母関数の定義である$m_{X}(t)=E[e^{tX}]$に基づいて導出を行うことができる。詳しくは「正規分布のモーメント母関数の導出」で詳しく取り扱った。
標本平均の差が従う分布
母分散が既知かつ等しい場合の「母平均の差」の推定の流れ
標本平均$\overline{X}, \overline{Y}$がそれぞれ下記のように正規分布に従うと仮定する。
$$
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\begin{align}
\overline{X} & \sim \mathcal{N} \left( \mu_1, \frac{\sigma^2}{m} \right) \\
\overline{Y} & \sim \mathcal{N} \left( \mu_2, \frac{\sigma^2}{n} \right)
\end{align}
$$
このとき、$\overline{X}-\overline{Y}$に関して下記が成立する。
$$
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\begin{align}
\overline{X}-\overline{Y} \sim \mathcal{N} \left( \mu_1-\mu_2, \frac{\sigma^2}{m}+\frac{\sigma^2}{n} \right) \quad (2)
\end{align}
$$
上記に基づいて母平均の差$\mu_1-\mu_2$の区間推定や仮説検定を考えることができる。$\mu_1-\mu_2$の$95$%区間は下記のように表せる。
$$
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\begin{align}
-1.96 \leq & \frac{(\overline{X}-\overline{Y})-(\mu_1-\mu_2)}{\sqrt{\frac{\sigma^2}{m}+\frac{\sigma^2}{n}}} \leq 1.96 \\
-1.96 \leq & \frac{(\overline{X}-\overline{Y})-(\mu_1-\mu_2)}{\sqrt{\frac{1}{m}+\frac{1}{n}}\sigma} \leq 1.96 \\
(\overline{X}-\overline{Y}) – 1.96 \sqrt{\frac{1}{m}+\frac{1}{n}}\sigma \leq & \mu_1-\mu_2 \leq (\overline{X}-\overline{Y}) + 1.96 \sqrt{\frac{1}{m}+\frac{1}{n}}\sigma
\end{align}
$$
同様に帰無仮説を$H_0: \, \mu_1-\mu_2 = 0$とする際の検定統計量$Z$は下記のように表せる。
$$
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\begin{align}
Z &= \frac{(\overline{X}-\overline{Y})-(\mu_1-\mu_2)}{\sqrt{\frac{\sigma^2}{m}+\frac{\sigma^2}{n}}} \\
&= \frac{\overline{X}-\overline{Y}}{\sqrt{\frac{1}{m}+\frac{1}{n}}\sigma}
\end{align}
$$
ここでは「母分散が既知かつ等しい場合」を取り扱ったが、そのほかの場合に関しても$(2)$に基づいて導出が行われるので基本的な考え方は同様である。「母分散が既知かつ等しい」場合以外に関しては詳しくは下記などで取り扱った。
次項では$(2)$が成立することを正規分布のモーメント母関数を用いて示す。
(2)の導出
確率変数$X \sim \mathcal{N}(\mu_1,\sigma_1^2)$と$Y \sim \mathcal{N}(\mu_2,\sigma_2^2)$に対応するモーメント母関数を$m_{X}(t), m_{Y}(t)$とおくと、$(1)$式に基づいてそれぞれ下記のように表せる。
$$
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\begin{align}
m_{X}(t) &= \exp \left( \mu_1 t + \frac{\sigma_1^2 t^2}{2} \right) \\
m_{Y}(t) &= \exp \left( \mu_2 t + \frac{\sigma_2^2 t^2}{2} \right)
\end{align}
$$
このとき確率変数$X-Y$のモーメント母関数は下記のように考えることができる。
$$
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\begin{align}
m_{X-Y}(t) &= E[e^{t(X-Y)}] \\
&= E[e^{tX}]E[e^{-tY}] \\
&= m_{X}(t) m_{Y}(-t) \\
&= \exp \left( \mu_1 t + \frac{\sigma_1^2 t^2}{2} \right) \times \exp \left( \mu_2 (-t) + \frac{\sigma_2^2 (-t)^2}{2} \right) \\
&= \exp \left( (\mu_1-\mu_2) t + \frac{(\sigma_1^2+\sigma_2^2) t^2}{2} \right)
\end{align}
$$
モーメント母関数と確率分布の$1$対$1$対応が成立するので、上記より$X \sim \mathcal{N}(\mu_1,\sigma_1^2), Y \sim \mathcal{N}(\mu_2,\sigma_2^2)$のとき$X-Y \sim \mathcal{N}(\mu_1-\mu_2,\sigma_1^2+\sigma_2^2)$が成立することが示せる。
「$X \sim \mathcal{N}(\mu_1,\sigma_1^2), Y \sim \mathcal{N}(\mu_2,\sigma_2^2)$のとき$X-Y \sim \mathcal{N}(\mu_1-\mu_2,\sigma_1^2+\sigma_2^2)$が成立する」を用いることで$(2)$が成立することも確認できる。
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