Ch.16 「いろいろな行列」の演習問題の解答例 〜統計学のための数学入門30講(朝倉書店)〜

当記事は「統計学のための数学入門$30$講(朝倉書店)」の読解サポートにあたってChapter.$16$の「いろいろな行列」の章末問題の解答の作成を行いました。
基本的には書籍の購入者向けの解説なので、まだ入手されていない方は購入の上ご確認ください。また、解説はあくまでサイト運営者が独自に作成したものであり、書籍の公式ページではないことにご注意ください。

・書籍解答まとめ
https://www.hello-statisticians.com/answer_textbook_math#math_stat

本章のまとめ

演習問題解答

問題$16.1$

書籍の解答では$3 \times 3$行列で示されているので、以下では$n \times n$行列で示す。

・$[1]$
$n$次の対角行列を$D=(d_{ij}), \overline{D}=(\bar{d}_{ij})$のようにおく。このとき$D\overline{D}$が対角行列となることを以下示す。$D\overline{D}$の$ij$成分を$(D\overline{D})_{ij}$と定めると、$i \neq j$のとき$(D\overline{D})_{ij}$は下記のように表せる。
$$
\large
\begin{align}
(D\overline{D})_{ij} &= \sum_{k=1}^{n} d_{ik} \bar{d}_{kj} \\
&= d_{i1} \bar{d}_{1j} + d_{i2} \bar{d}_{2j} + \cdots + d_{in} \bar{d}_{nj} \\
&= d_{ii} \bar{d}_{ij} + d_{ij} \bar{d}_{jj} \\
&= 0 \times d_{ii} + 0 \times \bar{d}_{jj} \\
&= 0
\end{align}
$$

また$i=j$のとき$(D\overline{D})_{ij}$は下記のように表せる。
$$
\large
\begin{align}
(D\overline{D})_{ij} &= (D\overline{D})_{ii} = \sum_{k=1}^{n} d_{ik} \bar{d}_{ki} \\
&= d_{i1} \bar{d}_{1i} + d_{i2} \bar{d}_{2i} + \cdots + d_{in} \bar{d}_{ni} \\
&= d_{ii} \bar{d}_{ii}
\end{align}
$$

上記より、$i=j$のとき$(D\overline{D})_{ij}=d_{ii}\bar{d}_{ii}$、$i \neq j$のとき$(D\overline{D})_{ij}=0$が得られる。任意の成分に関して同様であることから$D\overline{D}$は対角行列であることが示される。また、$\overline{D}D$に関しても同様に示せる。

・$[2]$
$n$次の上三角行列を$U=(u_{ij}), \overline{U}=(\bar{u}_{ij})$のようにおく。このとき$U\overline{U}$が上三角行列となることを以下示す。$U\overline{U}$の$ij$成分を$(U\overline{U})_{ij}$と定めると、$(U\overline{U})_{ij}$は下記のように表せる。
$$
\large
\begin{align}
(U\overline{U})_{ij} &= \sum_{k=1}^{n} u_{ik} \bar{u}_{kj} \\
&= d_{i1} \bar{d}_{1j} + d_{i2} \bar{d}_{2j} + \cdots + u_{i,i-1}\bar{u}_{i-1,j} + u_{ii}\bar{u}_{ij} + \cdots + d_{in} \bar{d}_{nj} \\
&= u_{ii}\bar{u}_{ij} + \cdots + d_{in} \bar{d}_{nj}
\end{align}
$$

ここで$\overline{U}$が上三角行列であることから、$i>j$のとき$\bar{u}_{ij}, \bar{u}_{i,j+1}, \cdots \bar{u}_{in}$はどれも$0$である。よって、$i>j$で$(U\overline{U})_{ij}=0$であり、$U\overline{U}$が上三角行列であることが示される。

$\overline{U}U$が上三角行列であることも同様に示せる。また、下三角行列$L,\overline{L}$に関しても同様に$L\overline{L}$や$\overline{L}L$の$(i,j)$成分を考えることで示すことができる。

問題$16.2$

行列$A$が非負定値行列であるとき、任意のベクトル$\mathbf{x}$に関して$\mathbf{x}^{\mathrm{T}}A\mathbf{x} \geq 0$が成立する。ここで$B^{\mathrm{T}}B$に関して下記のように考えることができる。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{x}^{\mathrm{T}} B^{\mathrm{T}} B \mathbf{x} &= (B \mathbf{x})^{\mathrm{T}} B \mathbf{x} \\
&= ||B \mathbf{x}||^2 \geq 0
\end{align}
$$

$\mathbf{x}^{\mathrm{T}} B^{\mathrm{T}} B \mathbf{x} \geq 0$であることから非負定値行列の定義より$B^{\mathrm{T}}B$は非負定値行列である。$BB^{\mathrm{T}}$に関しても同様に示すことができる。