テイラー展開などの漸近展開(asymptotic expansion)はある点を中心とする関数の動きを多項式で近似する式であり、極限値の計算にも適用することができます。当記事では漸近展開を用いた極限値の計算に関して概要と具体例に関して取りまとめを行いました。
作成にあたっては「チャート式シリーズ 大学教養 微分積分」の第$3$章「微分($1$変数)」を主に参考にしました。
・数学まとめ
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Contents
漸近展開を用いた極限値の計算の概要
漸近展開
下記などで取り扱った。
基本的には「漸近展開」では「ある点における関数の動きを多項式で近似する」と理解しておくと良い。
漸近展開を用いた極限値の計算
「漸近展開に出てきた始めの項」に着目することで不定形の極限値を導出できる場合が多い。
漸近展開を用いた極限値の計算の具体例
以下、「チャート式シリーズ 大学教養 微分積分」の例題の確認を行う。
基本例題$066.(1)$
$$
\large
\begin{align}
\lim_{x \to 0} \frac{(1-\cos{x})\sin{x}}{x-\sin{x}} \quad (1)
\end{align}
$$
上記の極限値を求めるにあたって漸近展開を用いる。$x=0$を中心とする$\sin{x}$の$1$次、$3$次の漸近展開と$\cos{x}$の$2$次の漸近展開はそれぞれ下記のように行える。
$$
\large
\begin{align}
\sin{x} &= x + o(x) \\
\cos{x} &= 1 – \frac{x^2}{2} + o(x^2) \\
\sin{x} &= x – \frac{x^3}{6} + o(x^3)
\end{align}
$$
上記を元に分母に$\displaystyle \sin{x} = x – \frac{x^3}{6} + o(x^3)$、分子に$\displaystyle \sin{x} = x + o(x), \cos{x} = 1 – \frac{x^2}{2} + o(x^2)$を代入すると$(1)$式は下記のように導出できる。
$$
\large
\begin{align}
\lim_{x \to 0} \frac{(1-\cos{x})\sin{x}}{x-\sin{x}} &= \lim_{x \to 0} \frac{\displaystyle \left[ 1 – \left(1 – \frac{x^2}{2} + o(x^2)\right) \right](x + o(x))}{\displaystyle x-\left(x – \frac{x^3}{6} + o(x^3)\right)} \\
&= \lim_{x \to 0} \frac{\displaystyle \left(\frac{x^2}{2} – o(x^2)\right)(x + o(x))}{\displaystyle \frac{x^3}{6} – o(x^3)} \\
&= \lim_{x \to 0} \frac{\displaystyle \left(\frac{1}{2} – \frac{o(x^2)}{2}\right)\left(1 + \frac{o(x)}{x}\right)}{\displaystyle \frac{1}{6} – \frac{o(x^3)}{x^3}} \\
&= \frac{\displaystyle \frac{1}{2} \cdot 1}{\displaystyle \frac{1}{6}} \\
&= \frac{6}{2} = 3
\end{align}
$$
基本例題$066.(2)$
$$
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\begin{align}
\lim_{x \to 0} \frac{e^{x}-1-x}{x^2} \quad (2)
\end{align}
$$
上記の極限値を求めるにあたって漸近展開を用いる。$x=0$を中心とする$e^x$の$2$次の漸近展開は下記のように行える。
$$
\large
\begin{align}
e^{x} &= 1 + x + \frac{x^2}{2} + o(x^2)
\end{align}
$$
上記を$(2)$式に代入することで下記のように導出できる。
$$
\large
\begin{align}
\lim_{x \to 0} \frac{e^{x}-1-x}{x^2} &= \lim_{x \to 0} \frac{\displaystyle 1 + x + \frac{x^2}{2} + o(x^2) – 1 – x}{x^2} \\
&= \lim_{x \to 0} \frac{\displaystyle \frac{x^2}{2} + o(x^2)}{x^2} \\
&= \lim_{x \to 0} \left( \frac{1}{2} + \frac{o(x^2)}{x^2} \right) = \frac{1}{2}
\end{align}
$$
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