ベクトル空間(vector)や部分空間の定義と具体例に基づく理解

ベクトル空間(Vector space)はベクトルの集合を元に定義される概念です。ベクトル空間やベクトル空間に関連する部分空間は抽象的なので、当記事ではベクトル空間・部分空間の定義に加えて「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の演習などの具体例も合わせて取り扱いました。
作成にあたっては「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の第$5$章「ベクトル空間」を主に参考にしました。

・数学まとめ
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ベクトル空間の概要

ベクトル空間の定義

集合$V$に関して下記が成立するとき、$V$をベクトル空間という。

$[1]$ $V$の任意の$2$つの要素$\mathbf{v}, \mathbf{w}$に関して要素$\mathbf{v}+\mathbf{w}$が$V$内に定義される。 → 和
$[2]$ $V$の任意の要素$\mathbf{v}$と$K$上の任意の要素$c$に対して要素$c \mathbf{v}$が$V$内に定義される。なお、$K=\mathbb{R}$の場合は実ベクトル空間、$K=\mathbb{C}$の場合は複素ベクトル空間という。 → スカラー倍
$[3]$ $[1]$と$[2]$の演算に関して下記の$[a]$〜$[h]$の演算規則が成立する。
$\quad [a]$ $(\mathbf{u}+\mathbf{v})+\mathbf{w}=\mathbf{u}+(\mathbf{v}+\mathbf{w})$
$\quad [b]$ 任意の$\mathbf{v}$に対し、$\mathbf{v}+\mathbf{0}=\mathbf{0}+\mathbf{v}=\mathbf{0}$となる$\mathbf{0}$が存在する。
$\quad [c]$ $\mathbf{v}$に対し、$\mathbf{v}+\mathbf{w}=\mathbf{w}+\mathbf{v}=\mathbf{0}$となる$\mathbf{w}$が存在する。
$\quad [d]$ $\mathbf{v}+\mathbf{w} = \mathbf{w}+\mathbf{v}$
$\quad [e]$ $a(b \mathbf{v}) = (ab) \mathbf{v}$
$\quad [f]$ $(a+b)\mathbf{v} = a\mathbf{v}+b\mathbf{v}$
$\quad [g]$ $a(\mathbf{v}+\mathbf{w}) = a\mathbf{v}+a\mathbf{w}$
$\quad [h]$ $1 \cdot \mathbf{v} = \mathbf{v}$

定義をまとめるにあたっては「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の基本例題$074$を元に取りまとめた。

部分空間の定義

ベクトル空間$V$の部分集合$W$に関して下記が成り立つとき、$W$は$K$上の$V$の部分空間であるという。

$[1]$ $\mathbf{0} \in W$
$[2]$ $\mathbf{v} \in W, \mathbf{w} \in W$ならば$\mathbf{v}+\mathbf{w} \in W$
$[3]$ $\mathbf{v} \in W, c \in K$ならば$c \mathbf{v} \in W$

上記の$K$は実数集合$\mathbb{R}$または複素数の集合$\mathbb{C}$で表される。定義に関しては「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の基本例題$075$を元に取りまとめた。

ベクトル空間の使用例

以下、「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の例題の確認を行う。

基本例題$074$

$$
\large
\begin{align}
& \mathrm{(S2)} \quad \mathbf{v} \in W, \mathbf{w} \in W \implies \mathbf{v}+\mathbf{w} \in W \\
& \mathrm{(S3)} \quad \mathbf{v} \in W, c \in K \implies c \mathbf{v} \in W \\
& \mathrm{(S4)} \quad (\mathbf{v} \in W, \mathbf{w} \in W) \cap (a \in K, b \in K) \implies a \mathbf{v} + b \mathbf{w} \in W
\end{align}
$$

上記のように$\mathrm{(S2)},\mathrm{(S3)},\mathrm{(S4)}$を定めるとき、「$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \iff \mathrm{(S4)}$」が成立することを示す。以下では、「$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \implies \mathrm{(S4)}$」と「$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \impliedby \mathrm{(S4)}$」に分けて示す。

・$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \implies \mathrm{(S4)}$
$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)}$を仮定するとき$\mathrm{(S3)}$より下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
a \mathbf{v} \in W, \quad b \mathbf{w} \in W
\end{align}
$$

上記に対して$\mathrm{(S2)}$を適用することで$a \mathbf{v} + b \mathbf{w} \in W$が成立する。よって$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \implies \mathrm{(S4)}$が成り立つ。

・$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \impliedby \mathrm{(S4)}$
$a \mathbf{v} + b \mathbf{w} \in W$が成り立つと仮定するとき、$a=b=1$を代入すると$\mathrm{(S2)}$、$a=c,b=0$を代入すると$\mathrm{(S3)}$に対応する。よって$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \impliedby \mathrm{(S4)}$が成立する。

よって、$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \implies \mathrm{(S4)}$かつ$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \impliedby \mathrm{(S4)}$が成立するので「$\mathrm{(S2)} \cap \mathrm{(S3)} \iff \mathrm{(S4)}$」が成り立つ。

基本例題$075$

基本例題$076$