単位三角行列(Unit triangular matrix)の$T$に関して$|AT|=|TA|=|A|$が成立することは$|AB|=|A||B|$の導出などで用いられます。当記事では単位三角行列の$T$に関して$|AT|=|TA|=|A|$が成立することの導出に関して取り扱いました。
「統計のための行列代数(Matrix Algebra From a Statistician’s Perspective)」のCh.$13$を参考に作成を行いました。
・参考
n次正方行列の行列式(determinants)の定義・公式とその解釈
https://www.hello-statisticians.com/explain-books-cat/matrix_determinants1.html
$\mathrm{Theorem}$や$\mathrm{Corollary}$の番号は「統計のための行列代数」に対応します。
Contents
前提の確認
ここでの目標である、「部分行列表記と単位三角行列を用いた行列式の公式|AB|=|A||B|の導出」で取り扱った「単位三角行列の積の行列式」の$\mathrm{Corollary}.13.2.11$の導出に必要な前提の確認を行う。
行・列の入れ替えと行列式
$n \times n$正方行列$A$の$i$行と$j$行を入れ替えた行列を$B$とおくとき、$|B|=-|A|$が成立することを下記に示す。
$$
\large
\begin{align}
& |B| \\
& = \sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(i)…,\sigma(j)…,\sigma(n))} b_{1,\sigma(1)} b_{2,\sigma(2)}…b_{i,\sigma(i)}…b_{j,\sigma(j)}…b_{n,\sigma(n)} \\
&= \sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(i)…,\sigma(j)…,\sigma(n))} a_{1,\sigma(1)} a_{2,\sigma(2)}…a_{i,\sigma(j)}…a_{j,\sigma(i)}…a_{n,\sigma(n)} \\
&= -\sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(j)…,\sigma(i)…,\sigma(n))} a_{1,\sigma(1)} a_{2,\sigma(2)}…a_{i,\sigma(j)}…a_{j,\sigma(i)}…a_{n,\sigma(n)} \\
&= -|A| \qquad (\mathrm{Theorem}.13.2.6)
\end{align}
$$
ここまでは$i$行と$j$行を入れ替えたと考えたが、$i$列と$j$列を入れ替えたと考えても同様の結果が得られる。
$2$つの行または列が一致する際の行列式
$n \times n$正方行列$A$の$i$行と$j$行が一致する際に、$A$の$i$行と$j$列を入れ替えた行列を$B$とおく。定義より$A=B$である一方で、このとき前項の$\mathrm{Theorem}.13.2.6$を用いると$|B|=-|A|$が成立し、$|A|=-|A|$より下記が成立する。
$$
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\begin{align}
|A| &= -|A| \\
2|A| &= 0 \\
|A| &= 0 \qquad (\mathrm{Lemma}.13.2.8)
\end{align}
$$
$i$列と$j$列を入れ替えた場合も同様に考えることができる。
「$i$行が$j$行の定数倍」または「$i$列が$j$列の定数倍」のときの行列式
行列$A$の$i$行と$j$行が一致する場合に、$A$の$j$行だけを$k$倍した行列を$B$とおく。このとき$\mathrm{Lemma}.13.2.2$より$|B|=k|A|$が成立する。ここで$\mathrm{Lemma}.13.2.8$より$|A| = 0$であるので下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
|B| &= k|A| \\
&= k \times 0 \qquad (\mathrm{Lemma}.13.2.8) \\
|B| &= 0 \qquad (\mathrm{Lemma}.13.2.9)
\end{align}
$$
上記は行に関して考えたが、列に関しても同様に考えることで成立することが示せる。
「$i$行の定数倍を$j$行に加えた」または「$i$列の定数倍を$j$列に加えた」際の行列式
行列$A$の$i$行の$k$倍を$j$行に加えた行列を$B$とおくと、$|B|$は下記のように考えることができる。
$$
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\begin{align}
|B| &= \sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(j),…,\sigma(n))} b_{1,\sigma(1)}…b_{j,\sigma(j)}…b_{n,\sigma(n)} \\
&= \sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(j),…,\sigma(n))} a_{1,\sigma(1)}…(a_{j,\sigma(j)}+ka_{i,\sigma(i)})…a_{n,\sigma(n)} \\
&= \sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(j),…,\sigma(n))} a_{1,\sigma(1)}…a_{j,\sigma(j)}…a_{n,\sigma(n)} \\
& \quad + k \sum (-1)^{\phi_{n}(\sigma(1),…,\sigma(j),…,\sigma(n))} a_{1,\sigma(1)}…a_{i,\sigma(i)}…a_{i,\sigma(i)}…a_{n,\sigma(n)} \\
&= |A| \qquad (\mathrm{Lemma}.13.2.10)’
\end{align}
$$
上記は行に関して考えたが、列に関しても同様に考えることで成立することが示せる。ここでは$i$行の加算のみを考えたが、$i,j$行以外の他の全ての行を$j$行に加えても結果は同じである。よって$\mathrm{Theorem}.13.2.10$が成立する。
単位三角行列の分解
単位三角行列は対角成分が$1$の三角行列である。三角行列には上側三角行列と下側三角行列があるが、ここでは下記のような$n \times n$単位下側三角行列を考える。
$$
\large
\begin{align}
T = \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ t_{21} & 1 & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ t_{n1} & t_{n2} & \cdots & 1 \end{array} \right)
\end{align}
$$
ここで$T$の$i$列以外を単位行列$I$の要素で置き換えた行列を$T_{i}$とおくと、$\displaystyle T = \prod_{i=1}^{n-1} T_{i}$が成立する。以下、$n=3$と$n=4$でそれぞれ成立することを確認する。
・$n=3$
$$
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\begin{align}
T_{1} T_{2} &= \left(\begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ t_{21} & 1 & 0 \\ t_{31} & 0 & 1 \end{array} \right) \left(\begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & t_{32} & 1 \end{array} \right) \\
&= \left(\begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ t_{21} & 1 & 0 \\ t_{31} & t_{32} & 1 \end{array} \right) = T
\end{align}
$$
・$n=4$
$$
\large
\begin{align}
T_{1} T_{2} T_{3} &= \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ t_{21} & 1 & 0 & 0 \\ t_{31} & 0 & 1 & 0 \\ t_{41} & 0 & 0 & 1 \end{array} \right) \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & t_{32} & 1 & 0 \\ 0 & t_{42} & 0 & 1 \end{array} \right) T_3 \\
&= \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ t_{21} & 1 & 0 & 0 \\ t_{31} & t_{32} & 1 & 0 \\ t_{41} & t_{42} & 0 & 1 \end{array} \right) \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & t_{43} & 1 \end{array} \right) \\
&= \left(\begin{array}{cccc} 1 & 0 & 0 & 0 \\ t_{21} & 1 & 0 & 0 \\ t_{31} & t_{32} & 1 & 0 \\ t_{41} & t_{42} & t_{43} & 1 \end{array} \right) = T
\end{align}
$$
ここでは具体例のみの確認を行なったが、ここで確認を行なった計算を元に帰納的に考えることで$\displaystyle T = \prod_{i=1}^{n-1} T_{i}$を示すことも可能である。
$|XT| = |TX| = |X|$の導出
任意の$n \times n$正方行列$X$に対して、前節で定義した$T_{i}$を用いて$XT_{i}$を計算することを考える。ここで$XT_{i}$の$i$列以外は$X$と同じで、$i$列は$i+1$から$n$列の定数倍を加えたと考えられる。
よって$\mathrm{Theorem}.13.2.10$より$|XT_{i}|=|X|$が成立する。ここで$\displaystyle T = \prod_{i=1}^{n-1} T_{i}$より$|XT|=|X|$も成立する。
$|T_{i}X|=|X|$に関しても同様に示すことで$|X|=|XT|$も同時に示せる。また、ここでは下側三角行列に関して示したが上側三角行列に関しても同様な議論を行える。以上より、単位三角行列$T$に関して下記が成立する。
$$
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\begin{align}
|XT| = |TX| = |X| \qquad (\mathrm{Corollary}.13.2.11)
\end{align}
$$