当記事は「統計学実践ワークブック(学術図書出版社)」の読解サポートにあたってChapter.15の「確率過程の基礎」に関して演習問題を中心に解説を行います。確率過程はなかなか理解するのが難しいトピックであると思われるので、演習を通して抑えておくと良いと思われました。
Contents
本章のまとめ
確率過程の定義・概要
$t \in [0,\infty)$に対して、確率変数$X_t$が与えられるとき、$X=(X_t)_{t \geq 0}$は確率過程(stochastic process)である。ここで$t$が連続値を取る場合を連続時間確率過程、離散値を取る場合を時系列と呼ぶことがあることは抑えておくと良い。
時系列解析では$t=1,2,3,…$などのように考えることは確率過程と時系列解析の手法を学ぶにあたっては知っておくと良い。
確率過程では独立定常増分過程の考え方を元に、$X_{t_{n+1}}-X_{t_{n}}$に独立同分布を仮定して最尤法やモーメント法を用いてパラメータ推定などを行うことが多い。
ブラウン運動のパラメータ推定
ブラウン運動$B_t \sim N(\mu t, \sigma^2 t)$に対して、$Z_k = B_{k \Delta}-B_{(k-1) \Delta} \sim N(\mu \Delta, \sigma^2 \Delta)$とおくとき、モーメント法を用いて$\mu, \sigma^2$の推定値$\hat{\mu}, \hat{\sigma^2}$は下記のように表せる。
$$
\large
\begin{align}
\hat{\mu} \Delta &= \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} Z_k \quad (1) \\
\hat{\sigma}^2 \Delta + (\hat{\mu} \Delta)^2 &= \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} Z_k^2 \quad (2)
\end{align}
$$
演習問題解説
例15.1
$W=(W_t)_{t \geq 0}$をウィーナー過程(Wiener process)とするとき、$B_t = \mu t + \sigma W_t$もブラウン運動であることを以下に示す。
1) $B$が独立定常増分過程である
$B_{t+h}-B_{t}=\mu h + \sigma(W_{t+h}-W_t)$であるが、$W$の定常増分性より$W_{t+h}-W_t \sim N(0,\sigma^2 h)$が成立する。よって、$B_{t+h}-B_{t} \sim N(\mu h,\sigma^2 h)$となり、$B$は定常増分性を持つ。同様に、$W$の独立増分性より$B$の独立増分性が伴う。
2) 各$t \geq 0$に対して、$B_t \sim N(\mu t,\sigma^2 t)$が成立する
$B_{t+h}-B_{t} \sim N(\mu h,\sigma^2 h)$より$B_{t} \sim N(\mu t,\sigma^2 t)$が成立する。
3) $B$のパスが連続である
$t \to w_t$が$t$の連続関数であるから、$t \to b_t$も$t$の連続関数である。よって$B$のパスが連続である。
上記より、$B_t = \mu t + \sigma W_t$がブラウン運動であることを示すことができる。
例15.2
問15.1
$[1]$
$Z_t = X_{k \Delta}-X_{(k-1) \Delta} = \sigma(B_{k \Delta}-B_{(k-1) \Delta}) \sim N(0, \sigma^2 \Delta)$とおき、$(2)$式を用いる。
$$
\large
\begin{align}
\hat{\sigma}^2 \Delta + (\hat{\mu} \Delta)^2 &= \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} Z_k^2 \\
\hat{\sigma}^2 \times 1 + (0 \times \Delta)^2 &= V \\
\hat{\sigma}^2 &= V \\
&= 0.0225 \\
\hat{\sigma} &= 0.15
\end{align}
$$
上記より、推定値$\hat{\sigma} = 0.15$が得られる。
$[2]$
$\displaystyle \Delta=\frac{1}{10}, V_1=0.00625$に基づいて、$[1]$と同様に考えればよい。
$$
\large
\begin{align}
\hat{\sigma}^2 \Delta + (\hat{\mu} \Delta)^2 &= \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} Z_k^2 \\
\hat{\sigma}^2 \times \frac{1}{10} + (0 \times \Delta)^2 &= V_1 \\
\hat{\sigma}^2 &= 10V_1 \\
&= 0.0625 \\
\hat{\sigma} &= 0.25
\end{align}
$$
上記より、推定値$\hat{\sigma} = 0.25$が得られる。
問15.2
$[1]$
不良品の発生は稀な事象と考えられるので、個数の$N_t$にポアソン分布を仮定することは妥当である。ここで累積数の増加が直線であることは、ポアソン過程の強度が一定であることに対応する。よって、$N=(N_t)_{t \geq 0}$をポアソン過程と考えることは妥当である。
$[2]$
$$
\large
\begin{align}
\hat{\lambda} = \frac{N_{n \Delta}}{n \Delta}
\end{align}
$$
上記で表した式に対して、$\Delta=1, n=300, N_{300}=558$を代入し、$\lambda$の最尤推定値の$\hat{\lambda}$の計算を行う。
$$
\large
\begin{align}
\hat{\lambda} &= \frac{N_{300}}{300} \\
&= \frac{558}{300} = 1.86
\end{align}
$$
$[3]$
$X=(X_t)_{t \geq 0}$は複合ポアソン過程であり、$E[U_k]=q, V[U_k]=q(1-q)$である。従って、例15.2の$[1]$の式より、下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
E[X_1] &= \lambda q \times 1 = \lambda q \\
V[X_1] &= \lambda \times 1 \times (q^2 + q(1-q)) \\
&= \lambda q
\end{align}
$$
$[4]$
下記より$q$の推定値$\hat{q}$が計算できる。
$$
\large
\begin{align}
1.53 &= \hat{\lambda} \hat{q} = 1.86 \hat{q} \\
\hat{q} &= \frac{1.53}{1.86} \\
&= 0.82258…
\end{align}
$$
参考
・準1級関連まとめ
https://www.hello-statisticians.com/toukeikentei-semi1