【統計学習中の方必見】ミスを減らし、学習効率を上げるための数学の答案の書き方のコツ

統計学に興味があるけれど、数学を苦手に感じる方は多いようです。ある程度は演習を繰り返して慣れるしかない話ではありますが、答案の書き方を知っているだけで本質的な内容の理解が行いやすくなるというのはあります。
数学が苦手な方々は論述式よりも選択式の方が解きやすそうと考えるかもしれませんが、実は論述問題の方が簡単かつ学習効率が高いです。この際に重要なのが答案の書き方のコツを知っているかどうかで大きく変わると思われるので、当記事では答案の書き方のコツについて以下取りまとめを行います。

なぜ答案の書き方が重要か

そもそも演習ベースの方が学習効率が高い

答案の書き方について考えるより先に、演習の学習効率について考えます。中学高校での数学の学習といえば問題演習がセットにされることが多いですが、演習はなぜ効果的なのでしょうか。
その理由には「①導出や計算の目的が明確になる」、「②帰納的に対象のトピックを考えることができる」などが挙げられると思います。①については教科書などの記載では一つ一つのトピックの導出が丁寧に書かれている一方で、説明が数ページに渡ると目的を見失いやすくなるため、演習も組み合わせることでこういったことを回避することが可能になります。②は教科書には具体例が少ない場合があり、書籍によっては数式と説明のみ記載されることもあります。一方で演習は具体的な問題を取り扱うことが多いため、具体例から演繹的にそのトピックを理解することが可能になります。

このように演習を中心に学習することで学習効率を上げることが可能になります。「あつまれ統計の森」が取り扱うのは統計学のトピックが中心ですが、統計のトピックの多くは数学で表されるため、統計学を学ぶ際にもここまでの内容は当てはまると思います。

演習については、「基礎統計学Ⅰ(東京大学出版)の章末問題の解答」、「重要演習100」、「統計検定の問題の解答例と解説」についてそれぞれ取りまとめを行いましたので、そちらも合わせて確認してみてください。

論述式は構成が決まっている

論述式の答案の作成は一見難しそうに見えるので人によっては苦手意識を持ちがちです。ですがむしろ答案の作成の構成は基本的に決まっており、それほど自由度が多いわけではありません。逆に考えるなら、基本的な答案の書き方のパターンが決まっているため、基本を覚えて慣れれば十分です。
数学の問題は具体的には「計算・導出関連の問題」と「証明問題」に大別されますが、「計算・導出の問題」は与えられた公式などに問題の設定した数字や式を当てはめて導出を行います。一方で証明問題は、前提と結論が同時に与えられて前提から結論を導出する問題です。

上記は「二項分布の問題」から抜粋しましたが、i)は「知識の確認」でⅱ)が「計算・導出問題」、ⅲ)が「証明問題」です。「知識の確認」については単独で出題されることもありますが、導出するメイントピックの誘導的に用いられることもあります。前半で知識の確認、後半で「計算・導出・証明」のように出題されることが多いと思いますが、このことにより統一の試験でも理解度に応じて得点を分布させることが可能になるため、こういった出題形式が多く用いられているのではないかと思われます。

あつまれ統計の森」の「重要演習100」では「〜を証明せよ」よりも「〜を示せ」や「〜を確認せよ」と記載することが多いですが、これは「証明」だと少々論理展開の厳密さが求められるニュアンスが含まれる場合があるからです。「重要演習100」の「〜を示せ」や「〜を確認せよ」はどちらかというと教科書の導出の重要な部分を抜き出して部分的に導出を確認するというのが趣旨であることが多いため、それほど厳密さを考えずに取り組めるような表現を主に用いることとしています。

なぜ答案の書き方が重要か

さて、ここまでの内容を元に、「なぜ答案の書き方が重要か」について確認します。それは「答案の書き方=問題を解くにあたってのルーティーン」であるからです。試験では選択式と論述式がありますが、論述式の要領で常に問題を解くことを心がけることで、段々と同じパターンで問題が解けるようになるため非常にお勧めです。特に検定試験などを受ける際に、試験の本番で急に普段通りの力が出せない時があります。こういった時などに答案作成のルーティーンを抑えておくことで、普段と同様に試験問題に取り組むことができるようになります。

また、答案作成のルーティーンに慣れておくことで単に試験対策でうまくいくだけでなく、導出にあたっての流れに自然と慣れることができるため、より高度な書籍や文献を確認する際にルーティーン部分はそれほど考えなくてよいことで、学習効率を上げることが可能になります。

具体的には内積を行列表記で表す$\mathbf{x}^{T}\mathbf{x}$などは慣れているかいないかで、多次元正規分布や主成分分析、フィッシャーの線形判別が理解できるかどうかを大きく左右します。難しく見える数学的な論理展開も、ルーティーン化しておくことで考えなくてよくなるため、それを補助する「答案の書き方」を掴んでおくことは非常に重要です。ここまでは「答案の書き方がなぜ重要か」について取り扱いましたが、次節では具体的に「答案の書き方のコツ」について取り扱います。

答案の書き方のコツ

表現や表記について

まず、表現や表記について簡単に確認します。書籍によって表記が異なることも多いですが、負担の少ない表記を身につけておくことが望ましいです。以下では筆者がなるべく気をつけている点についてまとめます。

だである調を用いる

数学の答案は基本的に「だである調」を用いることが多いです。「重要演習100」は解説は「ですます調」を使っている一方で、問題や解答には「だである調」を用いるようにしています。これは元々慣用的に「演習の答案ではだである調を用いる」というのが理由にあるのですが、「だである調」に慣れることで「メイントピック以外に考える量を減らす」という狙いも同時にあります。日本語の文の作成はなかなか複雑になることもあるので、複雑な思考を行う際は「だである調」を用いる方が「考える分量」を減らせるので、望ましいと思います。

接続詞を決めておく

前項の議論と同様になるべく日本語の文の作成はスムーズに行えると望ましいため、用いる接続詞も予めある程度は決めておくと良いと思います。筆者がよく用いるのは「よって・従って」、「しかし・一方で」、「また」、「ここで・このとき」、「上記より・以上より」などです。

「よって・従って」は順接、「しかし・一方で」は逆接、「また」は並列、「ここで・このとき」は無難に話を繋げたい場合、「上記より・以上より」は結論をまとめたい場合にそれぞれ用いることが多いです。特に、「よって・従って」は数学の答案で用いることが多いと思います。

また、これらに関連して数学記号も抑えておくと良いです。もちろんここで示した内容はあくまで一例なので、様々な問題集の解答などを確認することで負担の少ない表現を用いるようにしていくというのが良いと思います。

数式の記載はなるべく読みやすく

ベクトルの要素は縦表記

$$
\large
\begin{align}
\mathbf{x} = \left(\begin{array}{ccc} x_{1} & … & x_{D} \end{array} \right)
\end{align}
$$
上記のようにベクトルの要素を横表記にすると、非常に読みにくいので負担がかかるかつミスが増えます。それよりも下記のように要素を縦表記すると大変見やすいです。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{x} = \left(\begin{array}{c} x_{1} \\ … \\ x_{D} \end{array} \right)
\end{align}
$$

複雑な式展開は縦に並べる

$$
\large
\begin{align}
V_W &= \sum_{n \in C_1} (y_n-m_1)^2 + \sum_{n \in C_2} (y_n-m_2)^2 \\
&= \sum_{n \in C_1} (\mathbf{w}^{T}\mathbf{x}_n-\mathbf{w}^{T}\mathbf{m}_1)^2 + \sum_{n \in C_2} (\mathbf{w}^{T}\mathbf{x}_n-\mathbf{w}^{T}\mathbf{m}_2)^2 \\
&= \sum_{n \in C_1} (\mathbf{w}^{T}(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_1))^2 + \sum_{n \in C_2} (\mathbf{w}^{T}(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_2))^2 \\
&= \sum_{n \in C_1} \mathbf{w}^{T}(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_1)(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_1)^{T}\mathbf{w} + \sum_{n \in C_2} (\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_2)(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_2)^{T}\mathbf{w} \\
&= \mathbf{w}^{T} \left( \sum{n \in C_1}(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_1)(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_1)^{T}+\sum_{n \in C_2} \mathbf{w}^{T}(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_2)(\mathbf{x}_n-\mathbf{m}_2)^{T} \right)\mathbf{w} \\
&= \mathbf{w}^{T}\mathbf{S}_W\mathbf{w} \\
V_B &= (m_2-m_1)^2 \\
&= (\mathbf{w}^{T} (\mathbf{m}_2-\mathbf{m}_1))^2 \\
&= \mathbf{w}^{T}(\mathbf{m}_2-\mathbf{m}_1)(\mathbf{m}_2-\mathbf{m}_1)^{T}\mathbf{w} \\
&= \mathbf{w}^{T}\mathbf{S}_B\mathbf{w}
\end{align}
$$
例えば上記の式展開はフィッシャーの線形判別に出てくる郡間分散の式展開ですが、このように複雑な式を取り扱う際は縦に並べないとミスが増えます。答案作成を考える際に中央に縦の二分線を引いて作成すると良いなどを時折見かけますが、これは式を縦に並べる方が読みやすいことに基づきます。

簡易図を用いる

まとめ

当記事では「ミスを減らし、学習効率を上げるための数学の答案の書き方のコツ」についてまとめました。答案の書き方のパターンを抑えておくだけで、試験対策になるだけでなく普段の学習効率を上げることができるので非常におすすめです。