正則行列(regular matrix)でない正方行列の具体例とその証明

逆行列を持つ行列を正則行列(regular matrix)といいます。正則行列はランクが行列の次数に一致し、有限個の基本行列(elementary matrix)の積に対応します。当記事では正則行列でない正方行列の具体例とその証明について取りまとめました。
作成にあたっては「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の第$3.2$節「正則行列」を主に参考にしました。

・数学まとめ
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正則行列でない正方行列

正則行列の定義・特徴

「逆行列を持つ行列」を正則行列という。詳しくは下記で取り扱った。

正則行列でない行列の具体例

下記の行列は正則行列ではない。
$[1] \,$ 「$i$行が$0$」または「$j$列が$0$」の正方行列
$[2] \,$ 「$i$行が$j$行に一致」または「$i$列が$j$列に一致」する正方行列

上記の行列が正方行列でないことは次節の例題で証明を確認する。

正則行列と行列式

正則行列$A$の行列式$\det{A}$について$\det{A} \neq 0$が成立する。

具体例の確認

以下、「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の例題の確認を行う。

基本例題$046$

・i)
$n$次正方行列$A$の$i$行目の成分が全て$0$の場合、下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
a_{i1} = a_{i2} = \cdots = a_{in} = 0 \quad (1)
\end{align}
$$

ここで$n$次正方行列$X$を定義し、$AX$の計算を行うと$(1)$式より$X$の値に関わらず$AX$の$(i,i)$成分$AX_{ii}$について$AX_{ii}=0$が成立する。$AX_{ii}=0$は正則行列の定義である「$AX=I$となる$X$が存在する」ことと反するので$A$は正則行列ではない。

・ⅱ)
$n$次正方行列$A$の$j$列目の成分が全て$0$の場合、下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
a_{1j} = a_{2j} = \cdots = a_{nj} = 0 \quad (2)
\end{align}
$$

ここで$n$次正方行列$X$を定義し、$XA$の計算を行うと$(1)$式より$X$の値に関わらず$AX$の$(j,j)$成分$AX_{jj}$について$AX_{jj}=0$が成立する。$AX_{jj}=0$は正則行列の定義である「$AX=I$となる$X$が存在する」ことと反するので$A$は正則行列ではない。

基本例題$048$

i)
行列$A$の$i$行目と$j$行目が一致する場合、$P_{ij}(-1)A$の$i$行目の成分が全て$1$となり、基本例題$046$より$P_{ij}(-1)A$は正則ではない。ここで正則行列の積は正則行列である一方で、正則行列$P_{ij}(-1)$と$A$の積は正則行列ではないので$A$は正則行列ではない。

ⅱ)
行列$A$の$i$列目と$j$列目が一致する場合、行列$A$の転置行列$A^{\mathrm{T}}$の$i$行目と$j$行目が一致するので、i)より$A^{\mathrm{T}}$が正則行列ではないことが確認できる。正則行列の転置行列は正則行列であるので$A$は正則行列ではない。