直和の定義・部分空間の和が直和かどうかの判定・部分空間の直和分解

ベクトル空間を部分空間(subspace)に分解するにあたっては直和(direct sum)かどうかに着目する必要があります。当記事では直和の定義・部分空間の和が直和かどうかの判定・部分空間の直和分解についてそれぞれ取りまとめを行いました。
作成にあたっては「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の第$5.1$節「ベクトル空間と部分空間」を主に参考にしました。

・数学まとめ
https://www.hello-statisticians.com/math_basic

直和

直和の定義

ベクトル空間$V$の部分空間$U, W$に対し、$U \cap W = {0}$が成立する場合、$U$と$W$の和を$U$と$W$の直和といい、$U \oplus W$のように表す。

直和かどうかの判定

ベクトル空間$V$の部分空間$U, W$に対し、下記の$[1], [2]$は同値であるのでどちらかが成立するかを確認すれば良い。
$[1] \,$ $U \cap W = {0}$が成立
$[2] \,$ $U + W$の各要素が$\mathbf{u}+\mathbf{w} \, (\mathbf{u} \in U, \mathbf{w} \in W)$の形に一意に表せる

直和分解

$V = W_1 \oplus \cdots \oplus W_s$を直和分解という。

具体例の確認

以下、「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の例題の確認を行う。

基本例題$082$

$[1]$
$$
\large
\begin{align}
U &= \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \middle| 2x+y+4z=0, \, x+2y-z=0 \right\} \\
W &= \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \middle| -x+2y-6z=0 \right\}
\end{align}
$$

上記に基づいて下記のような連立方程式を得る。
$$
\large
\begin{align}
2x+y+4z &= 0 \\
x+2y-z &= 0 \\
-x+2y-6z &= 0
\end{align}
$$

上記の解は$x=y=z=0$であるので、$U \cap W = \{\mathbf{0}\}$が成立する。よって$U+W$は直和である。

$[2]$
$$
\large
\begin{align}
U &= \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \middle| x+z=0 \right\} \\
W &= \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \middle| 2x+y+6z=0 \right\}
\end{align}
$$

上記に基づいて下記のような連立方程式を得る。
$$
\large
\begin{align}
x+z &= 0 \\
2x+y+6z &= 0
\end{align}
$$

上記の解の$1$つに$x=1, y=4, z=-1$が得られるので、$U \cap W \neq \{\mathbf{0}\}$が成立する。よって$U+W$は直和ではない。

$[3]$
$$
\large
\begin{align}
U &= \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \middle| x-y-z=0 \right\} \\
W &= \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \middle| -x+2y+4z=0, \, 2x-y+z=0 \right\}
\end{align}
$$

上記に基づいて下記のような連立方程式を得る。
$$
\large
\begin{align}
x-y-z &= 0 \\
-x+2y+4z &= 0 \\
2x-y+z &= 0
\end{align}
$$

上記の解の$1$つに$x=-2, y=-3, z=1$が得られるので、$U \cap W \neq \{\mathbf{0}\}$が成立する。よって$U+W$は直和ではない。

結果の考察

$[1]$の$U$は$2x+y+4z=0, \, x+2y-z=0$が同時に成立するので、下記のベクトルに基づく直線を表す。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{u} = k \left[\begin{array}{c} -3 \\ 2 \\ 1 \end{array} \right] \in U, \, k \in \mathbb{R}
\end{align}
$$

また、$W$は下記に基づく平面を表す。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{w} = s \left[\begin{array}{c} 6 \\ 0 \\ 1 \end{array} \right] + t \left[\begin{array}{c} 0 \\ 3 \\ 1 \end{array} \right] \in W, \, s,t \in \mathbb{R}
\end{align}
$$

ここで$\mathbf{u} = \mathbf{w}$が成立する実数$k,s,t$は$k=s=t=0$のみであるので、$U+W$が直和である。解答では方程式を元に解いたが、このように方程式を元に直線や平面を表すベクトルを得ることで直和かどうか調べることができる。

$[2]$では$U$と$V$がどちらも平面を表すので、$\mathbb{R}^{3}$である以上、二つの平面がベクトルを共有するので直和ではない。

$[1]$と同様に$[3]$の$U$は下記に基づく平面を表す。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{u} = s \left[\begin{array}{c} 1 \\ 1 \\ 0 \end{array} \right] + t \left[\begin{array}{c} 1 \\ 0 \\ 1 \end{array} \right] \in W, \, s,t \in \mathbb{R}
\end{align}
$$

また、$W$は下記に基づく直線を表す。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{w} = k \left[\begin{array}{c} -2 \\ -3 \\ 1 \end{array} \right] \in U, \, k \in \mathbb{R}
\end{align}
$$

ここで$s=-3,t=1,k=1$のとき、$\mathbf{u}$と$\mathbf{w}$について下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{u} &= s \left[\begin{array}{c} 1 \\ 1 \\ 0 \end{array} \right] + t \left[\begin{array}{c} 1 \\ 0 \\ 1 \end{array} \right] \\
&= -3 \left[\begin{array}{c} 1 \\ 1 \\ 0 \end{array} \right] + \left[\begin{array}{c} 1 \\ 0 \\ 1 \end{array} \right] \\
&= \left[\begin{array}{c} -2 \\ -3 \\ 1 \end{array} \right] = \mathbf{w}
\end{align}
$$

上記より$U$が表す直線は$W$が表す平面に含まれることが確認できる。よって$U+W$は直和ではない。

基本例題$083$

$$
\large
\begin{align}
W_1 = \left\{ \left[\begin{array}{c} x \\ 0 \\ 0 \end{array} \right] \middle| x \in \mathbb{R} \right\}, \, W_2 = \left\{ \left[\begin{array}{c} 0 \\ y \\ 0 \end{array} \right] \middle| y \in \mathbb{R} \right\}, \, W_3 = \left\{ \left[\begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ z \end{array} \right] \middle| z \in \mathbb{R} \right\}
\end{align}
$$

$\displaystyle \mathbf{e}_{1} = \left[\begin{array}{c} 1 \\ 0 \\ 0 \end{array} \right], \, \mathbf{e}_{2} = \left[\begin{array}{c} 0 \\ 1 \\ 0 \end{array} \right], \, \mathbf{e}_{3} = \left[\begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ 1 \end{array} \right]$のようにおくと、任意の$\displaystyle \mathbf{v} = \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] \in \mathbb{R}^{3}$は下記のように表せる。
$$
\large
\begin{align}
\mathbf{v} = \left[\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right] = x \mathbf{e}_{1} + y \mathbf{e}_{2} + z \mathbf{e}_{3}
\end{align}
$$

上記は一意的に表せるので、$W_1+W_2+W_3$は直和である。