エルミート行列(Hermitian matrix)の定義とエルミート行列の性質

複素数を成分に持つ行列を考える際に成分が実数のみの場合の転置行列と同様の取り扱いをする際にエルミート行列(Hermitian matrix)が出てくることがあります。当記事ではエルミート行列の定義と性質に関して演習などを通して具体的に取りまとめを行いました。
作成にあたっては「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の第$7$章「内積」を主に参考にしました。

・数学まとめ
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エルミート行列の概要

$n$次正方行列$A=(a_{ij})$を考え、$a_{ij}$の複素共役を$\overline{a_{ij}}$のように定める。このとき$a_{ij}=\overline{a_{ji}}$が成立する場合$A$はエルミート行列であるといい、$A^{*}=A$のように表す。

対角成分に関しては$a_{ii}=\overline{a_{ii}}$が成立するので、エルミート行列の対角成分が全て実数であることも抑えておくと良い。

エルミート行列の性質・行列式

以下、「チャート式シリーズ 大学教養 線形代数」の例題の確認を行う。

基本例題$144$

・$(1)$
行列$A, B$がエルミート行列である場合、下記が成り立つ。
$$
\large
\begin{align}
A^{*} &= A \\
B^{*} &= B
\end{align}
$$

よって下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
(A+B)^{*} &= A^{*} + B^{*} \\
&= A + B
\end{align}
$$

よって$A,B$がエルミートであるときは$A+B$もエルミート行列であると考えられる。

・$(2)$
$A=(a_{ij})$のように表すとき、行列$A$がエルミート行列であるなら$a_{ij}=\overline{a_{ji}}$が成立する。ここで$k \in \mathbb{R}$に関して下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
k a_{ij} = k \overline{a_{ji}} &= \overline{k a_{ji}}
\end{align}
$$

上記より$(kA^{*})=kA$であるので、行列$A$がエルミート行列であるなら$kA$もエルミート行列である。

基本例題$145$

以下、エルミート行列$A$の行列式$\det{(A)}$が実数であることを示す。$A$がエルミート行列であることから$A=A^{*}$であるので下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
\det{(A)} = \det{(A^{*})} \quad (1)
\end{align}
$$

また、$\det{(A^{*})}$に関して下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
\det{(A^{*})} = \overline{\det{(A)}} \quad (2)
\end{align}
$$

$(1), (2)$より下記が成立する。
$$
\large
\begin{align}
\det{(A)} = \overline{\det{(A)}}
\end{align}
$$

上記が成立することより$\det{(A)}$が実数であると考えることができる。