Ch.10 「正規分布からの標本」の章末問題の解答例 〜基礎統計学Ⅰ (東京大学出版会)〜

当記事は「基礎統計学Ⅰ 統計学入門(東京大学出版会)」の読解サポートにあたってChapter.10の「正規分布からの標本」の章末問題の解説について行います。
基本的には書籍の購入者向けの解説なので、まだ入手されていない方は下記より入手をご検討ください。また、解説はあくまでサイト運営者が独自に作成したものであり、書籍の公式ページではないことにご注意ください。(そのため著者の意図とは異なる解説となる可能性はあります)

・解答まとめ
https://www.hello-statisticians.com/answer_textbook_stat_basic_1-3#red

章末の演習問題について

問題10.1の解答例

$E[\bar{X}]$と$V[\bar{X}]$は下記のように計算できる。
$$
\begin{align}
E[\bar{X}] &= \mu = 100 \\
V[\bar{X}] &= \frac{\sigma^2}{n} \\
&= \frac{0.1}{10} \\
&= 0.01
\end{align}
$$
上記より、$\bar{X}$に関する標本分布は$N(100, 0.01)$に従う。

また、標本分布の分散を$\sigma_{mean}$とすると、$\sigma_{mean}=0.1$より、$|\bar{X}-100|>0.3$は正規分布の3σ区間の外となる確率を意味する。正規分布表より、3σより大きい区間の上側確率は$0.0013499$であるから求める確率はこれを$2$倍した、$0.0026998$となる。(約0.27%であり、なかなか起こらない事象と考えることができる。)

問題10.2の解答例

$|\bar{X}-100|<0.1$の確率を0.9にするにあたっては、標本分布の分散を$0.1$の上側確率が$5$%となるように$\sigma_{mean}$を設定すればよい。よって$0.1$が正規分布の1.64σに対応するように標本分布の分散を設定すればよい。
$$
\begin{align}
V[\bar{X}] &= \sqrt{\frac{0.1}{n}} \times 1.645 = 0.1 \\
0.1 \times 1.645^2 &= 0.01n \\
n &= 10 \times 1.645^2 \\
&= 27.06…
\end{align}
$$
問題は確率を0.9より大きくするだったので、上記の数より大きい$28$回以上の測定が必要となる。

問題10.3の解答例

i)
問題より下記が成立する。
$$
\begin{align}
E[\bar{X}] &= \mu = 4 \\
V[\bar{X}] &= \frac{\sigma^2}{n} \\
&= \frac{15}{10} \\
&= 1.5
\end{align}
$$
したがって、$\bar{X}$の標本分布は$N(4,1.5)$に従う。この標準化した値を$Z$とすると、$Z$は下記のように計算できる。
$$
\begin{align}
Z &= \frac{\bar{X}-E[\bar{X}]}{\sqrt{V[X]}} \\
&= \frac{\bar{X}-4}{\sqrt{1.5}}
\end{align}
$$
これを元に求める確率は下記のように計算できる。
$$
\begin{align}
P(3 \leq \bar{X} \leq 6) &= P\left(\frac{3-4}{\sqrt{1.5}} \leq \frac{\bar{X}-4}{\sqrt{1.5}} \leq \frac{6-4}{\sqrt{1.5}}\right) \\
&= P\left(\frac{-1}{\sqrt{1.5}} \leq Z \leq \frac{2}{\sqrt{1.5}}\right) \\
&= P(-0.82 \leq Z \leq 1.63) \\
&= 1-(0.20611+0.051551) \\
&= 0.7423…
\end{align}
$$

ⅱ)
問題文より、$\displaystyle \chi^2 = \frac{(n-1)s^2}{\sigma^2} = \frac{9s^2}{15}$が$\displaystyle \chi^2(n-1) = \chi^2(9)$に従うことがわかる。この確率分布において、上側確率が$0.05$となる点を$\displaystyle \chi_{0.05}^2(9)$とすると、$\chi^2$分布の分布表より$\displaystyle \chi_{0.05}^2(9) = 16.9190$が読み取れる。
$$
\begin{align}
P\left( s^2 > a \right) &= 0.05 \\
P\left( \frac{9s^2}{15} > \frac{9a}{15} \right) &= 0.05
\end{align}
$$
この時、上記より、$\displaystyle \chi_{0.05}^2(9) = \frac{9a}{15} = 16.9190$となる。よって求める定数$a$は、$\displaystyle a = \frac{15}{9} \times 16.9190 = 28.198…$となる。

問題10.4の解答例

問題の内容を整理すると下記のようになる。
$$
\begin{align}
P\left( \frac{\bar{X}-3}{s} > a \right) &= 0.01 \\
P\left( \frac{\bar{X}-3}{s/\sqrt{15}} > \sqrt{15}a \right) &= 0.01
\end{align}
$$
ここで$\displaystyle \frac{\bar{X}-3}{s/\sqrt{15}}$は自由度$14$の$t$分布$t(14)$に従う。よって、$\sqrt{15}a=t_{0.01}(14)=2.624$が成立するので、$\displaystyle a=\frac{2.624}{\sqrt{15}}=0.6775…$となる。

問題10.5の解答例

二つの標本平均をそれぞれ$\bar{X}_1$、$\bar{X}_2$とする。この際に下記のように$Z$を定義する。
$$
\begin{align}
Z = \frac{(\bar{X}_1-\bar{X}_2)-(\mu_1-\mu_2)}{\sqrt{\frac{\sigma_1^2}{m}+\frac{\sigma_2^2}{n}}}
\end{align}
$$
このとき、$Z$は標準正規分布$N(0,1)$に従う。また、問題より下記が計算できる。
$$
\begin{align}
\mu_1-\mu_2 &= 2-5 \\
&= -3 \\
\frac{\sigma_1^2}{m}+\frac{\sigma_2^2}{n} &= \frac{3}{10}+\frac{4}{8} \\
&= \frac{4}{5} \\
&= 0.8
\end{align}
$$
上記より、標本平均の差$\bar{X}_1-\bar{X}_2$の標本分布は$N(-3,0.8)$となる。

問題10.6の解答例

$$
\begin{align}
F &= \frac{\sigma_2^2}{\sigma_1^2} \cdot \frac{s_1^2}{s_2^2} \\
&= \frac{4s_1^2}{3s_2^2}
\end{align}
$$
問題文より、上記は自由度$(m-1,n-1)=(10-1,8-1)=(9,7)$の$F$分布の$F(9,7)$に従う。よって下記が成立する。
$$
\begin{align}
&P\left(\frac{s_1^2}{s_2^2}>c\right) = 0.05 \\
&P\left(\frac{4s_1^2}{3s_2^2}>\frac{4}{3}c\right) = 0.05 \\
&P\left(\frac{4s_1^2}{3s_2^2}>F_{\alpha=0.05}(9,7)\right) = 0.05 \\
&P\left(\frac{4s_1^2}{3s_2^2}>3.677\right) = 0.05
\end{align}
$$
上記より、$\displaystyle \frac{4}{3}c=3.677$なので、$\displaystyle c=3.677 \times \frac{3}{4} = 2.75775$となる。

問題10.7の解答例

i)
$\bar{X}$の母平均を$\mu$、母標準偏差を$\displaystyle \frac{\sigma}{10}$とする($\bar{X}$よりも$X$の母標準偏差を$\sigma$としておくことが多いと思われるため、ここでは母標準偏差を$\sigma^2$とおくことにした)。問題文を整理すると下記のようになる。
$$
\begin{align}
P\left( |\bar{X}-\mu|>0.8\frac{\sigma}{10} \right) &= P\left( \frac{|\bar{X}-\mu|}{\sigma/10} \geq 0.8 \right) \\
&= P\left( \frac{|\bar{X}-\mu|}{\sigma/10} \geq 0.8 \right) \\
&= 2P\left( \frac{\bar{X}-\mu}{\sigma/10} \geq 0.8 \right) \\
&= 0.21186 \times 2 \left( \displaystyle \frac{\bar{X}-\mu}{\sigma/10}が標準正規分布N(0,1)に従うことを利用 \right) \\
&= 0.42372
\end{align}
$$
上記が求める確率となる。

ⅱ)
$\bar{X}$の母平均を$\mu$、母標準偏差を$\displaystyle \frac{s}{10}$とする。問題文を整理すると下記のようになる。
$$
\begin{align}
P\left( |\bar{X}-\mu|>0.8\frac{s}{10} \right) &= P\left( \frac{|\bar{X}-\mu|}{s/10} \geq 0.8 \right) \\
&= P\left( \frac{|\bar{X}-\mu|}{s/10} \geq 0.8 \right) \\
&= 2P\left( \frac{\bar{X}-\mu}{s/10} \geq 0.8 \right) \\
&= \frac{97 \times 0.25 + 83 \times 0.2}{97+83} \times 2 \left(\displaystyle \frac{\bar{X}-\mu}{s/10}が自由度10-1=9のt分布t(9)に従うことを利用 \right) \\
&= 0.453888…
\end{align}
$$
上記が求める確率となる。(書籍の解答は$0.446$であり、少々異なるが、$P(|t| \geq 0.8)$を計算しているところまでは合致しているので、一旦こちらを載せるに至った)

問題10.8の解答例

定数$c_1, c_2$の値は下記を実行することで計算することができる。

import numpy as np
from scipy import stats

rho = 0.6
n = 15.
eta = np.log((1+rho)/(1-rho))/2.

z_1 = stats.norm.ppf(0.025, eta, np.sqrt(1./(n-3)))
z_2 = stats.norm.ppf(0.975, eta, np.sqrt(1./(n-3)))

c_1 = (np.e**(2*z_1)-1)/(np.e**(2*z_1)+1)
c_2 = (np.e**(2*z_2)-1)/(np.e**(2*z_2)+1)

print("c_1: {:.3f}".format(c_1))
print("c_2: {:.3f}".format(c_2))

・実行結果

> print("c_1: {:.3f}".format(c_1))
c_1: 0.127
> print("c_2: {:.3f}".format(c_2))
c_2: 0.851

zからcの計算では、$\displaystyle z = \frac{1}{2} \log{ \frac{1+r}{1-r} }$を$r$について解くと、$\displaystyle r = \frac{e^{2z}-1}{e^{2z}+1}$のように表せることを用いた。

問題10.9の解答例

i)

ⅱ)
$$
\begin{align}
Z_{\alpha=0.025} &= 1.96 \\
(Z_{\alpha=0.025})^2 &= 3.8416 \\
\chi_{\alpha=0.05}(1) &= 3.84…
\end{align}
$$
$$
\begin{align}
t_{\alpha=0.025}(120) &= 1.98 \\
(t_{\alpha=0.025}(120))^2 &= 3.9204 \\
F_{\alpha=0.05}(1,120) &= 3.920
\end{align}
$$
$$
\begin{align}
t_{\alpha=0.05}(120) &= 1.658 \\
Z_{\alpha=0.025} &= 1.645
\end{align}
$$
上記より、ここで具体的に考えた値に関して概ね一致していることが確認できる。

まとめ

標本抽出に関連する一連の事項は推測統計を考えるにあたって中心的な考え方になるので、Ch.10の内容はCh.11の推定やCh.12の検定を考える上で非常に重要な印象です。

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